蒼夏の螺旋

  “寒の戻り”
 


鬼の霍乱というのは日射病を指すのだと聞いたことがある。
陽にあたりすぎて倒れることで、
日頃 非常に元気な人が思わぬ病に倒れる喩えに使われており、
急性腸カタルのような、激しい腹くだしだという説もある。

 「でもなぁ、やっぱ“花粉症”はなかろうよ。」
 「うっせぇなっ

そんなデリカシーのあるような身には見えんと言うのか、なんて、
だったらそう見てほしいのかなぁと、
あとあとでルフィも、ひょこりと小首を傾げたのは さておくとして。
いつもは頼もしいまでに冴えている精悍な切れ長の双眸を、
今は ちょっぴり熱っぽく浮かせて威張られても迫力が足らず。

 「医者へ行きたくないなんて、小さい子供じゃあるまいに。」

岸本せんせえんトコなんだから、勝手は分かってらっしゃるだろによと。
スマホで先触れの連絡を取ろうとする奥方へ、
やめろ〜〜と手を伸ばすものの、
出勤スタイルに着替えて、リビングのソファーまでは出て来たが、
そのまま立ち上がれないでいるんじゃあ、やはり結構な重篤といえて。

 「風邪かインフルか、はっきりさせてもらやいいじゃんか。」
 「はっきりされんのが……。」

困るのだと言いかけ、うううと口ごもる辺り、

 “ゾロって目上の人に弱いもんな。”

そこもまた、剣道という武道で身についた習慣か、
上司や年上の人からのご意見には、
渋々という場合もなくはないが、
それでも…否も応もなく仰せの通りにと素直に従う傾向が強く。
無理無体を吹っかける上司は滅多にいないという
環境に恵まれ続けて来たからでもあろうし、

 『なんの、ああまで太々しい奴だから、
  何ですか?もう一回言ってもらえませんかなんて、
  重厚に睨みを利かされちゃあ、
  もういいです…って尻すぼみにもなろうさ。』

それを本人の技量と言っていいものか、
職場での彼を知らぬところではいい勝負なはずだのに、
やけにリアルな言いようをしたサンジの弁へ、
ルフィも妙に納得したことがある。(おいおい)笑

 「人を何だと思ってやがるかな。」
 「人並みに思ってほしいなら、ちゃんと診てもらえ。」

鼻がぐずぐずいう、目が赤いってだけなら花粉症もありかもだけど、

 「こないだまで
  杉花粉が絶賛飛散中だった頃は 全然平気だったろうがよ。」

戸棚から降ろした救急箱を手に、傍らまで戻って来たルフィ奥様、
薄べったい箱から密封された封を取り出し、
青いジェルが塗られた冷えぴたを摘まみ出すと、
平らなおでこへぺたんと貼っつけてやり、

 「専門家から“病気だよ”と決められたら、
  もう逆らえないからイヤなんだろうけどさ。」

融通が利かない男へ一番効き目があるのは、
実は“真っ当な対処”なのだってことまでも、
ちゃんと把握しておいでのルフィとしては。
そこへ最も効果のある一言を付け足して差し上げるのを忘れない。
病人なんだからという説得中とは思えない、
相手のお膝へまたがるようにしもってという態勢で、
真正面から人差し指を立て立て言いつのったのが、

 「いいか? ちゃんとちゃっちゃと治さないでいて、
  挙句に俺までインフルで引っ繰り返ったら、
  どう聞き付けてか サンジが看病にって飛んでくるぞ?」

 「…っ。」

情報収集は任せろな奴だかんな、
カードを使ってないから買い物に出てないらしいとか
そういう“不自然”をチェックするソフトでもって
俺の異常くらいあっさり割り出しちまうかもしんないぞなんて、
とんでもないことを持ち出したものだから、

 「…判ったよ。」

堂々と自分の身を楯にする方もする方だが、
それを聞いて しおしおと折れてしまう、偉丈夫様も偉丈夫様。(笑)
とっとと投薬してもらい、
大人しく療養して早く治すことに決めたそうで。

 「…だから、自分で車を運転しようとするんじゃないの。」

実は一応所有してるんですよの、
軽自動車の鍵を手にするのを おいおいと窘めつつ、
タクシー呼ぶから、待ってなさいって、と、
あらためて電話をかける奥様としては、

 『いやいや、
  いくらサンジでもそこまでの監視はしちゃいあないって。』

ただ、そうやって持ち出せば
妙にライバル心を持ってるゾロみたいなので、
てきめん言うこと聞くだろうと思ったからだと。
無邪気な奥方、こっそりVサインしつつ
“してやったり”なんて思ったらしかったものの。


 いつぞや、
 ルフィさんへのお届けものは全部チェックしていると
 大威張りで豪語していたサンジさんだっての、
 彼本人は果たして御存知なんだろか……?(大笑)





     〜Fine〜  14.04.15.


  *ここんところの朝晩の冷え込みのせいでしょか、
   小姫さんが風邪を引きましてね。
   すぐにも鼻が詰まって、
   寝られなくなるので可哀想ったらないのですが。
   そしたら、何と
   おばさんもいいところの私も寒気に襲われ、風邪引いてしまいました。
   花粉症がなかなか収まらないなぁと思ってたのも
   間違っちゃいないのでしょうが、
   これは風邪じゃないんだからと油断したのが不味かったようで。
   ちゃんと靴下はいて用心しなきゃあ。(うう…)


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